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アンケートまとめ ID GyVCWoZpO さんの場合 Q00. あなたは都市伝説を信じますか? 火の無い所に煙は立たない。そういうこった。 Q01. あなたはどんな都市伝説が好きですか? 妄想して萌えれるヤツと、戒めや風刺的なやつ。 Q02. あなたがこのスレで好きな物語はなんですか? 花子さんと契約した男・巨乳なテケ子・うさぎちゃん 闇子さん etc Q03. Q02.のどこが好きですか? 内臓ボンバー!!は爆笑したwww花子さんと契約した男のやり取りに萌える。乙女な骨ってのが良い。テケ子と先生の新妻ライフとか好き。名前通り小動物系うさぎちゃんと強気なようで脆い闇ちゃん萌え etc Q04. あなたがこのスレで好きなキャラクターは誰ですか? 赤い靴を初めとする変態ども。隙間男とか。 手前味噌ながら花子様。 上の質問で萌えた方々。 Q05. Q04.のどこが好きですか? 突き抜けた変態はむしろ気持ち良い・清々しい。 Q06. あなたの契約したい都市伝説はなんですか? メリーさん。ローゼン的に考えて。 Q07. あなたのフェティズムを教えてください。 黒髪 うなじ わき 脚 鎖骨 メガネ 夏服 浴衣(祭のか温泉のかで小一時間語れる) まだまだあるよ Q08. あなたの好きな曲を教えてください(ジャンルは自由です)。 Star Dust(サンホラ) 聖少女領域(アリプロ全般好き) JAP・キミノウタ(西川全般好き) レッツ ゴー関連の曲けいおん!全般 etc Q09. 御感想、御意見など、御自由にどうぞ!! コラボ良いよね。もっとコラボられてみたいわ。 声劇化羨ましいわ。 うるせぇ!ポロリ温泉初の(ryぶつけるぞ!! Q10. さっきからあなたの後ろにいる方はどなたですか? 後ろ?ああ、今は俺の横で寝てるぜ。 Q11. あなたは赤/好きですか? 嫌いじゃないぜ
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「夢見る兄妹」 夜、もう寝る時間、彼、七夕真久良は枕元にジャンプを置き、眠りにつく。 彼の契約都市伝説『枕元に入れた物の夢を見る』。本来なら、彼はジャンプ漫画の世界に行く夢を見るはずだった。しかし… 真久良「どこ、ここ…?」 彼が居たのは電車の中だった 真久良「…いやな予感しかしない」 内心当たって欲しくない、とも思ってみたが… 『この度は夢列車にご乗車いただき、誠にありがとうございます』 アナウンスが聞こえてくる 真久良(絶対猿夢だよこれ…) 『次は、抉りだし~抉りだし~』 真久良の下にスプーンを持った小人がやってくる 真久良(まずい、このままじゃ抉られる…) 対処方法を考える真久良 真久良(そうだ…さっき枕元に置いたジャンプで…) 何かを思いついた様子の真久良 小人はどんどん近づいてくる 真久良「一か八か…。“ゴムゴムの銃乱打”!」 真久良の腕がまるでゴムのように伸び、小人達に当たる 真久良「ねらい通り!」 『…次は~挽き肉~挽き肉~』 巨大な機械を引いて小人がやってくる 真久良「“ゴムゴムの~”バズーカ!」 しかし、いとも簡単に弾かれてしまう 小人は機械を引きながら真久良に近づいてくる 真久良「やば…」 どんどん近づいてくる が、次の瞬間、 「キョアーオ」 悲鳴…いや、奇声と言うべきだろうか…を上げて、小人が消えてしまった 夢見「何してるのよ、お兄ちゃん」 真久良「夢見!」 今のは夢見の契約都市伝説『ゆめにっき』の★ほうちょう★である さらに夢見が真久良の夢の中に入ってこれたのは『ゆめにっき』の都市伝説の一つ、『窓付きは他人の夢に入れる超能力者』の能力である 夢見「全く…お兄ちゃんの能力は戦闘向けじゃないんだから…」 夢見がやれやれ、とて手を動かす 真久良「まだのこってるよ。めだかボックスより…異常性『殺人衝動』+技術『暗器』!銃殺!」 真久良が服から二丁拳銃を取り出し、小人達を撃ち殺す 夢見「へぇ、やるじゃないお兄ちゃん」 「キョアーオキョアーオキョアーオ」 夢見が残った小人を★ほうちょう★でしとめる 『長らくのご乗車、ありがとうございました。次は終点、皆殺し~』 大量の小人が、様々な武器を持って押し寄せてくる 真久良「流石にこの数は…」 夢見「やばいわね…」 後ずさりする真久良と夢見 真久良「保健室の死神より…病魔『裁断(ジャッジメント)』!」 先ほどの小人の挽き肉機を操作し小人を足止めする。 真久良「夢見、今のうちに…!」 夢見「うん。『窓付き監禁説』!」 その瞬間、謎の壁が現れ、小人達を閉じ込めた。 『ゆめにっき』の都市伝説の一つ、『窓付き監禁説』の能力である 真久良「さて…今のうちに逃げよう。もう朝だろうし」 夢見「そうね…」 夢見が自分と真久良の頬を抓る 瞬間、周りの空間が歪み… 真久良「ふぁ~…やっと抜け出せた」 一方、夢見の部屋では… 夢見「…そうだわ。日記をつけないと…」 〈9月16日木曜日 今日はお兄ちゃんの夢に入りました 。猿夢と戦いました。 閉じ込めて逃げてきました。〉 続く…
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ずるりっ 女が、階段に引きずり込まれていく 階段から伸びる、血塗れの手に引きずり込まれていく 女は泣き叫び暴れるが、逃げられない ずるりっ、ずるりっ 女はそのまま、階段に引きずり込まれていって… …女を引きずり込んだ、階段の「13段目」が、ふっ、と消える その様子を、にやにやと見下ろしている人影があった 階段の手すりに腰掛け、それを見下ろす 「よし…いいぞいいぞ。やっぱ強いぜ、『13階段』……!」 けらけらと、それは笑う そうだ、自分が契約した都市伝説は強い 階段さえ傍にあれば、自分は無敵なのだ…! 都市伝説 「13階段」 普段は12段しかない階段が特定時刻には13段になり、その13段目を踏むと使者に引きずり込まれるという都市伝説 契約により、特定時刻でなくとも13段目を具現化させ、踏んだ相手を引きずり込めるようになった 元々13段以上ある階段の場合も、13段目を踏んだ相手を引きずり込む事が可能 当然、階段がない場所では無力である ちりんちりん… 彼は、夜道を自転車で走っていた まったく、深夜のバイトは疲れてしまう 自転車で、事故らないように気をつけないと… ……グキッ!! 「がっ!?」 ---ッ突然、彼の腰を激痛が走った その瞬間、バランスを崩し…ガシャンッ!!と 自転車を転倒させた彼は、その場にうずくまって、動けなくなってしまった… 「ひ~ひっひっひっひ!!」 けたけたけた 倒れた青年を見下ろし、少女が笑う 箒に乗った、可愛らしい少女 その姿は、魔女そのもの 「ひ~ひっひっひ!!楽しい国だねぇ、日本ってのは!何故か若返れたし、本当最高だよ」 けたけた、けたけた笑いながら 魔女は、箒で空を飛びまわり、獲物を探し続けるのだった 都市伝説 「魔女の一撃」 ヨーロッパなどでは、ギックリ腰は魔女の仕業である、と信じられてきた それの具現化が彼女である 元々はババアだったが、日本に来たらなにかの魔女っ娘と混ざったのか若返った 今のところ契約者は存在せず、ギックリ腰を起こさせる以外に特に能力は発見されていない 「え~と…あれ、どこだっけ…」 ごそごそ 女性は、鞄の中を探りながら歩く あれ、おかしいな 携帯は、確かに鞄の中に… 「…あ、あったあった」 ほっといて、彼女は鞄から携帯を取り出す …いっそ、見付からなければ良かった、と 後悔する暇が、彼女にあっただろうか? ぴ、と、携帯を操作した…その瞬間 どごぉんっ!!と、携帯が爆発した 携帯の画面を見つめていた彼女 腕と、頭が吹き飛んで……あっさりと、その命を散らしてしまったのだった 「…く………くく……」 …その、光景を 離れた所から見ていた男がいた 女の持っていた携帯が爆発した事で、周囲の人間はパニックになって 往来の真ん中に、腕と頭が吹き飛んだ死体が転がっている 「くく………くくくくく……っ」 その様子を見て 男は、俯いて…体を、震わせていた 「く…………くく………くけ、くけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ………」 不気味に、不気味に、男は笑っていた あぁ、なんて楽しいのだろう なんて、簡単に人を殺せるのだろう この力は無敵だ 自分は傷つくことなく、こんなにも簡単に人を殺せる なんて、なんて、素晴らしい力なのだろうか、と……… 『携帯電話が爆発する』 ガソリンスタンドで携帯電話を使ったところ、携帯が爆発した 原因は、電波を受信する際に大量の電流が流れ、それがガソリンに引火した為である…と言う都市伝説 人間と契約したことにより、ガソリンスタンドから離れた場所であっても、携帯電話を爆発させられるようになった ただし、ガソリンスタンドから遠ければ遠いほど威力は落ちる 「単発もの」に戻る ページ最上部へ
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占い愛好会の日常 06 「…………ふむ」 既に使われていない空家の一つ。 その目の前の電柱に、一人の老人が腰かけていた。 工事の際に足場となる杭に尻を乗せ、眼下の空家を眺めている。 老人を追っていただろう黒服が中へと踏み込んでから十分。 建物の中からは何の音もしない。 「……つまらんの」 隙を見て女の黒服の乳でも揉んでやろうかと策を練っていた老人は、退屈そうに足をプラプラとさせる。 家屋の中で何が起こっているのか、外からでは分からない。 しかし何かが起こっているだろうことは、老人にも推察できた。 黒服が入る前には微弱ながらも空家から漏れていた気配が、今はほとんど消えている。 つまり、今まで張っていた結界を、侵入者が出た事により強化したのだろう。 そしてそれは、黒服が中でどうなったのかを容易に想像させた。 もし勝利したのなら、結界が強化されるはずもない。 恐らく黒服は捕縛されたか、殺されでもしたのだろう。 「今悪事を働こうとしておる者は悪魔の囁きだけじゃと思っていたが……」 面倒くさそうに、老人が呟く。 愛好会のメンバーに被害が出るような状況は出来るだけ避けたい。 不穏な因子は、取り除くに限るのだが、 「敵戦力は未知数じゃからの」 老人は、強い。 それは一つの事実だ。 しかし、彼より強い都市伝説など、それこそ星の数ほどいるだろう。 例えば、遥か昔から神話として語られるような存在。 例えば、実体そのものがない存在。 中国における最古の都市伝説であっても、それらに太刀打ちする事は難しい。 「…………さて」 まずはあの家屋に潜む都市伝説について調べなければならない。 逃げだしておいて今更帰り辛いが、愛好会のメンバーを動員すればある程度の情報は集まるだろう。 老人は静かに、その場を離れようとして 「…………む」 ふと、一人の女性が眼下の道、その100メートル程先を歩いているのを発見した。 タイトなスーツに身を包んだその女性は、老人好みのナイスバディである。 「…………ふむ」 老人の頭の中で、女と眼下の家屋内にいる都市伝説の存在が天秤にかけられる。 それは一瞬の拮抗もなく、女に大きく傾いた。 「……ほっほっほ」 黒服の一人が殺されているのだ。 その原因である眼下の家屋についても、組織が勝手に調査でもするだろう。 老人はそう己に納得させて、電柱から飛んだ。 彼にとっての生きがいは、エロス。 一度それを目の前にしてしまえば、老人の目からそれ以外の要因は簡単に消え去る。 「ほっほっほ」 暗い夜道に、老人の笑い声が響き渡った。 【終】 前ページ 表紙に戻る 次ページ
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―――この物語はIFでありどうせ幻想に決まってます 本編と関係あるはずもありません――― これは、少し昔の話 まだ、「首塚」組織が出来る前の話…… 「ん……------」 目の前で酩酊状態の少年を前に、店主はほくそえんだ 本人は高校生だ…と言い張っていたが、まだ中学生だろう 年齢を偽ってバイトの面接に来た時点で、訳アリに決まっている だから…たとえ、この少年が行方不明になったとしても、周囲はさほど騒ぎ立てないだろう いや、騒ぎ立てたところで、彼はそれを問題とはしないのだが -----ねぇ、知ってる? あのお店のバイトの子って、しょっちゅう入れ替わるでしょ? あれって、どっかの国に売られてるからなんだって どうして売られるかって? そりゃあ、エッチなお仕事につかされるためらしいよ? 面接の時点で、既に選別されるんだって そこで選ばれると…売られちゃうんだって そんな噂があった そんな都市伝説があった 店主は、その都市伝説と契約していた …いや、そもそも、彼には「契約した」と言う自覚はない 自覚などないままに、彼はその仕事を行っていた 面接にきた、主に女性を相手に、水に能力で作り出した特殊な液体を混ぜて飲ませ、今のこの少年のような状態にして そして、じっくり、じっくりと選別して 売り物になりそうだったら、売り払う その相手がどうなるのか、彼は知らないし興味がない ただ、対象の初物を得られるのが楽しくて、彼はそれを続けていた 彼は気付いていない 無意識に都市伝説と契約してしまった時点で、彼は既に都市伝説に飲み込まれかけていた …それ以前から、彼は別の都市伝説とも契約していたからだ あまりにジャンルが違う都市伝説同士の多重契約 もともと、さほど器が大きくなかった彼は、それによって…都市伝説に、飲み込まれかけた 既に彼は、彼自身が半ば都市伝説となりかけている 「…さぁて、男相手は久々だが…」 相手は、まだ中学生だ …この年頃で、まさか後ろの経験なんぞある訳ないだろう あったらむしろ驚く 元から契約していた能力で配合した薬も、水に混ぜておいた たとえ、そっちの才能がなかったとしても…じっくりと、開発してやればいい 「------んん」 するり シャツの下に、手を滑り込ませた 少年特有のきめ細やかな肌の感触を堪能する 薬の効果が表れているだろう、ぴくりっ、少年の体は触れられた事に反応し、小さく跳ねる つつ、と脇腹からゆっくりと、手を上へ上へと移動させ…そこに、到達する 「---っ」 くに、とそこを弄ってやれば、少年の体はますます跳ねた 執拗に弄ってやれば、そこはぷくり、立ち上がってきて せっかくだ、味も見させてもらうとするか シャツをたくし上げ、露出させた肌に、舌を這わせようとした…その時 「---そこまでです」 「っ!?」 駆けられた声に、慌てて振り返る 彼の能力が発動し、誰も入り込めないはずの部屋 …その部屋の入り口に、何時の間にか、黒服の男が立っていた 彼に銃を向け、静かに告げてくる 「…その少年から、離れなさい」 「っく……「組織」か!?」 都市伝説の知識などほぼないはずの彼であったが、なぜか「組織」の事は知っていた その理由を、彼は知らない 彼の以前にこの都市伝説と契約し、「組織」に消された人間がいるなど…そんな事実を、彼は知る良しもないし だからこそ、その知識を自分が受け継いでいるのだ、と言う事実など知らない ただ、彼がいますべき事は あの黒服を、どうにかする事だ 幸い、ひょろりとした体格で弱そうだ 不意さえ打つ事ができれば… そう考えて、彼はそれを発生させた 己の体から、人間だけではなく、都市伝説相手すら効果のある薬を生み出す それが、彼の力 薬の効果は、彼の思いのままに作り上げられる 睡眠薬なり媚薬なり、毒殺できるような薬こそ作れないが、他人を思いのままにできる薬を作り出せる その、応用だ 体内で睡眠薬を合成し、彼は体中から発生させる 霧状になったそれは、部屋を包み込み… ----しかし、黒服に、変化はない 「…対策を打たずに来るとお思いますか?」 「っち……」 眠らせてやろうと思ったのだが…中和剤か何かでも飲んできたか!? 薬が効かないとなると、不味い あの銃で一発でも撃たれたら、彼は死ねる 彼自身の肉体は、強化などされていないのだから 「…く、くそっ!」 少年は惜しいが、仕方ない 彼は急いで部屋の奥へと走り、隠し扉の奥へと逃げ込んだ そのまま、外へと…… 「おぉっと、残念」 「ーーーーっ!?」 ……しゅるんっ ! 彼に向かってきた、それ 彼は、それを寸前で避けた びたんっ!と壁に張り付く 「お?」 しゅるり 黒い、まるで触手のようになった髪を操る黒服の男が、そこにはいた …逃走経路は既に抑えられていたか! だが、甘い! にょろん、ズボンの裾から真黒な尻尾をはみ出させ、彼はひたひたと壁を垂直に登っていく 「……「イモリの黒焼き」との多重契約かい。それで、イモリっぽい能力もあるってか?」 っち、とその黒服は舌打ちしてきた しかし、彼はそんな事は聞いていない 今は、逃げるべきなのだ 逃げて、どこか遠くでこの商売を続ければいい そう、彼は考えていた 殺されるつもりなんざ、さらさらない……! 「…だが、逃がさねぇよ」 黒服も、彼を逃がすつもりなどなかった しゅるり、際限なく伸び続ける髪が、彼を追う ごがっ! ごがっごがっごがっ!!! 強烈な薙ぎが、次々と壁に打ち付けられる 彼は、それを必死で避けて逃げ続けた 捕まるものか、捕まるものか まだ、自分は生き続けるのだ 仕事を続けるのだ …自分を生み出した噂は、まだ生き続けているのだから……!! 「…残念ゲームオーバーだ」 しゅるりっ 彼の、そのズボンからはみ出した尻尾が……捕らえられた 「お前、もう飲み込まれてるよ」 無慈悲な声と、共に 彼の体に、黒服の髪の毛が一斉に絡まりだした 「大丈夫ですか?しっかりしてください」 「……ん」 …駄目だ 睡眠薬の類でも、摂取させられたようだ 意識が定まっていないのだろう、ぼんやりとしていて…こちらの声も、聞こえているかどうか 呼吸が荒く、頬が紅潮している辺りを見ると…他の薬も混ぜられているのかもしれない とにかく、急いで解毒してやらなければ 黒服は、すぐに「ユニコーンの角の粉末」を鞄から取り出した 少年に、飲ませようとするが… 「………」 …口を、空けてくれない 水は…コップに入ってる分は問題外だ。鞄にミネラルウォーターが入っているから、それを使えばいい ただ、どちらにせよ口をあけてくれない事には… 「…仕方ありませんね」 強引にでも、飲ませなければ そう考えながら、黒服はミネラルウォーターのペットボトルをあけた ミネラルウォーターとユニコーンの角の粉末を、そのまま口に含むと、少年の顎に手をかけた 少し力を入れると、少年の口が、うっすらと開いて その口内に、ユニコーンの角の粉末を含んだ水を流し込んでいく ……ぴくりっ、と 黒服の腕の中で、少年の体が小さく跳ねた 「………んん」 まだ、意識は戻っていないが…ユニコーンの角の粉末の効果が現れているようだ 呼吸が、落ち着いてきている 黒服がほっと息をはいて、少年の頭をそっと撫でてやったのだった 「悪いねぇ、お前さんに恨みはないんだけどよ……むしろ、女の子相手にエロエロする。それに関しては羨ましいと思うよ」 しゅるしゅるしゅるしゅる その黒服の伸びる髪が、店主を束縛する 全身を髪の毛で覆われ、店主は苦しそうにもがき苦しんでいた …それだけ、ではない 全身を締め付けられ、呼吸など最早できていないはずだ 「でも、まぁ、こっちは黒服成り立てでよ……上の信頼を得なきゃいけないだわ、これが」 困ったように笑いながら、黒服はそう言って …そして、残酷に言い切った 「だから、悪いけど死んでくれや。俺が上から信頼を得るために」 ぶちんっ!! 店主の首を、髪で引きちぎる ぽい、と、なるでボールのように投げられたそれは、壁にぶつかり、ごろん、と床を転がった 「うっし、終わりー!」 ぐぐぅ、と背伸びする黒服 とてもじゃないが、たった今、人殺しをしたようには見えない …と、携帯が着信を告げて、黒服はすぐに応対した 「あ、はいはい……あぁ、始末したぞ………ん?あぁ、被害者がいたのか……まぁ、未遂かどうかは割りとどうでもい…あ~、わかったわかった。そう責めないでくれよ。とりあえず、そいつ、送ってやるのな?……わかった」 …やれやれ なんとも、優しい同僚がいたものだ 黒服に優しさなど、必要なのか? …この黒服には、その必要性がわからない 「ま、いいか」 後始末は任せられた ……すなわち! 「店のどこかにいるかもしれない、囚われのおねーちゃんたちの扱いは俺に任せられた、という事だな!!」 しゅるしゅるしゅるしゅるしゅる!!! 物凄い勢いで、髪を伸ばし この黒服はスキップなどしつつ、店内へと入っていったのだった 「………あれ?」 「あぁ、目が覚めましたか?」 少年を背負って、店を出た …薬の効果が切れたのだろう 少年が、意識を取り戻した 「…あれ…俺…」 「あまり、無理に喋らなくてもいいですよ…とにかく、家に送りますから」 「家………嫌だ……」 ふるふると 少年は、小さく首を振る 「…あんな所……もう、戻らねぇ…」 ……また、家出だろうか? 一瞬、そう考えたのだが…少年の声から感じられたのは、「家には絶対に帰らない」と言う、はっきりとした強い意志 今までの家出とは、明らかに違う もう二度と、家には戻らない…あの両親に対する、はっきりとした拒絶を感じ取れた 「…それでは、どちらにお帰りになられるので?」 「…………」 …返事はない ほぼ無計画で家を飛び出したのだろう 全く、困ったものだ ……しかし、少年の考えもわからなくはない あの家は…この少年には、酷すぎる環境だから 「わかりました、今夜は、ホテルに送りますから…家から、私物は持ち出しているのですか?」 「…きょーかしょとか、着替えとかは……ダチの家に…」 「わかりました。明日、その友人に連絡するのですよ?」 わかった、とそう頷いてきて 少年はこてん……と、力尽きて、寝息を立て始めた 小さく、ため息をつく この少年は、まだ中学3年 生活費を稼ぐ為に、アルバイトをしようとしたのだろうが… …あぁ言う都市伝説に引っかかってしまうようでは、危ない せめて、安全なアルバイト先を見極められるようになるまでは、自分が援助してやらないと 黒服はそう考えながら、少年を背負い、夜の街を歩き続けたのだった fin
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「……生きていますよね?」 掛けられた声に振り向くと、くたびれた白衣を着た青年が立っていた。 「これが死んでいるように見える?殺したら取引が成立しないじゃない」 顎で娘を指し示す。 「はは…先に振り込んで置いたんですから、そんな事になったら困りますよ…」 青年が、襤褸雑巾のような、呼吸をするのもやっとといった体の少女に近づき、能力を発動させる。 少女の腕に、一筋の切り傷が出来た。 彼が契約している都市伝説、「門田稲荷神社」の縁切りの効果により、少女と契約していた都市伝説との繋がりが切れた。 「もっと早くソレを処分して欲しかったんだけど?」 「色々と事情がありまして…ええ、分かっていますよ。今後一切、貴女方夫婦に接触はしません」 「そうしてもらえる?面倒事に巻き込まれるのはごめんだわ」 不快と苛立ちを露わにしていた母親の表情が、いくらか和らいだように思えた。 ――学校町内某所 『器の許容率上昇中…目標値まで残り65%です』 「んー…上昇率が悪いなぁ……こっちも使おうかな」 くたびれた白衣を着た青年――レナード・ハイアットは、報告を受け、一つの注射器を選び取った。 心得たとばかりに、近くに居た研究員が注射器を受け取り、部屋を後にした。 ガラス越しに見下ろしているのは、手術台に拘束具で固定され、目隠しと猿轡をされた少女。 レナードが取引してきた、件の研究材料だ。 少女に処置を施している女性――ニエヴェス・ジェンテーレから少し離れた所で、研究員が記録を付けている。 ニエヴェスが手にしているのは、GPS機能付きのマイクロチップ。 それを、少女の額に近づけ――触れた瞬間、まるで水中に手を差し入れるかのように、指先から手首までが抵抗無く飲みこまれていく。 ニエヴェスの契約都市伝説、『心霊医術』の能力によるものだ。 少女の身体が大きく痙攣した。 脳を掻き回し、脳髄にマイクロチップを埋め込んでいく。 「―――――!!―――――!!!」 少女がくぐもった声を上げる。 酷い喪失感を始め、触れられる事など考えた事も無かった場所を掻き回される恐怖と怖気、身体の内側を強引に広げられていくような苦痛があった。 視界は暗闇に閉ざされ、目隠し布に覆われ、聴覚もほとんど機能していない。 流れる涙は目隠し布に吸われ、声も猿轡に遮られて明確な音にならない。 自分の置かれた状況すら理解出来ず、呻き声と涎を洩らしながら身をよじることしか―― ギリ、と少女の首か締まった。 少女の身体が強張る。 首を絞める力は徐々に増していき………手が離れた。 ニエヴェスは、大人しくなった少女を一瞥し、机に置かれた様々な機械を見やる。 まだまだ施さなければならない処置は山ほどある。 …と、扉が開き、入ってきた研究員からどす黒い液体の入った注射器を受け取った。 「さーて…どれがいいかなぁ…」 それらを確認し、レナードは、机に広げられた数十枚の都市伝説契約書を見比べ始めた。 続く…?
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【上田明也の探偵倶楽部37~抜けば玉散る氷の刃~】 「サンジェルマン、なんか俺、この前妙な奴らに襲われたんだけど。 いやお前が準備したのは解っているんだけどさ。 なんか俺まずいこと口走っちゃったみたいで……、うん。 俺の玩具にする目的でお前らはあいつに改造されたのだフッハッハー!とか言ったらさ。 そうそう、ごめんね。妙な事言わなきゃもっっと遊べたのに。 多分あいつはお前の命を狙っているから気をつけろよ。 ミスド買って帰るから許せ。」 プツッ 上田明也はサンジェルマンとの話をさっさと切り上げた。 やはりゲームの世界で彼に襲いかかってきたのはサンジェルマンが暇潰しにした実験の犠牲者だったらしい。 彼は都市伝説の力を使うのではなく、都市伝説で手に入れた技術で強化された人間を戦力として使ったのである。 埋め込み型の外骨格だの白い人工血液だの組織製の身体能力強化手術だのバイオテクノロジーだの文系の彼にはチンプンカンプンだが、 そんな彼にもその技術で容量や年齢やセンスに関係なくある程度の強さが手に入るという事が解った。。 まあ確かに強い人間であれば都市伝説の力なくして都市伝説に立ち向かうことが可能なのは既に証明されていることでもある。 契約者をスカウトするよりは、戦力としての効率が良い。 面白おかしいことをしているものだ、と上田明也は思った。 とてもとても下らなくて笑いが止まらない、とも思った。 彼の父が昔彼に教えてくれた事実がある。 強い人間は努力しなくても強いのだ。 弱い人間は何をしても弱いのだ。 それを改めて自覚させる為に弱い人間に力を与えるなんて中々良い趣味じゃないか。 自らを生まれついての強者と決めつけている上田明也は少し屈折した優越感を抱いていた。 だがそれも、少し時間が経つと虚しいだけの気持ちに切り替わっていた。 「あ、そうだ。」 彼はそのことに電話を切ってから気付いてしまう。 「サンジェルマンって戦闘能力有るの?」 上田明也はサンジェルマンがまともに戦闘しているのを見たことがない。 無論戦えないということは無いのだろうが、 この前の男のような俊敏な動きをする敵の相手が彼につとまるのだろうか? 「まああいつだってお偉いさんなんだから護衛の一人や二人はいるよね。」 もし護衛を頼まれても自分はパスだ。 そもそも自分は何かを守るということに向いていないのだから。 それに自分は明日晶の結婚するとか言う国中佐織の兄について調べねばならないのだ。 自分にそう言い聞かせると彼はそそくさと探偵業務に戻っていった。 日常に埋没していった。 「さて、F№の皆様に招集をかけるとしましょうか。 彼はここの場所を知っていますし、IDカードも持っていますから。」 『組織』の中にある古ぼけた図書館にサンジェルマンは座っていた。 そこが一応F№達の部屋と言うことにはなっているのだ。 だが彼等の規律が『徹頭徹尾フリーダム』である以上そこに素直に集まる者はほとんど居ない。 否、まったく居ない。 であるがゆえに 「招集をかけても誰も来ませんね。セキュリティーのホムンクルスまで来ないなんて。」 この状況にはサンジェルマンも苦笑いである。 恐らく全員が№0の命などどうでも良いのだろう。 図書館のドアが開く。 「招集に唯一応じたのが貴方だとは……、皮肉ですねえ。」 開いたドアが一瞬で燃え墜ちる。 古い本に火花が燃え移って焦げ臭い香りが辺りに充満した。 「どうも信用ならないと思っていたが…… 答えろサンジェルマン、俺に施した改造手術の目的を!」 「そんなの、貴方に上田明也を殺して貰う為に頑張って貰う為に決まってるじゃないですか。 私は嘘は吐いてません。 ただ、それが不可能なのを知っていただけです。」 ドアを開いた男の名前は国中佑介。 彼は上田明也によって妹を殺された男だ。 そして上田明也が身辺調査を始めたばかりの男だ。 「何度か貴方をここに連れてきていましたが……。 勝手に此処まで来るとはどういうことでしょう? 他の部署に比べて手薄とはいえ一応セキュリティーのホムン……黒服が居たはずですよ。」 「燃やしたよ。」 愉快そうに言い放つ佑介。 彼の衣服が揺れる度にそこから炎が舞い上がる。 「……いつの間に契約を?」 「組織に置いてあった契約書を奪い取らせて貰った。 お前が信用ならない以上これからは独自に行動する。 お前に、騙された分のお礼をしてからだがな!」 「ああそうか、『振り袖火事』の契約書を持ち出しましたね?」 「お前に戦闘能力が無いらしいことは知っている! まずは此処に残っている人体改造に関する研究のデータを破壊させて貰うぞ!」 「貴方の後続機を作られたら敵わないとでも?」 「違う、俺みたいな被害者をもう出したくないだけだ!」 「…………それは嘘だ。」 強化された身体能力に任せて飛びかかる佑介に対して、 小さな声でサンジェルマンは呟いた。 「来てください、『超古代文明の遺産(オーパーツ)』!」 サンジェルマンの手のひらがくぱぁと二つに割れる。 そしてそこから大量の剣や槍が雪崩の如く祐介に向けて射出される。 当然、それらの一つ一つが最高級の都市伝説だ。 すこしでも当たれば致命傷は免れない。 だがサンジェルマンの手で改造された人間「国中祐介」はその全てを視認して回避した。 「喰らえ!」 都市伝説の隙間を縫って振り袖火事の炎がサンジェルマンを包む。 だが炎の中から現れたサンジェルマンの身体には火傷一つできていなかった。 「危ない危ない……。」 「それもお前の都市伝説か?」 「そうですね、これが無ければ死んでいたかも知れません。 火鼠の皮衣なんて貴重品ですよ? 貴方が眼にすることなんてもう無いんじゃないでしょうか。」 サンジェルマンは何時の間にか闘牛士のような赤いマントを羽織っていた。 どうやらそれが炎を防いでいたらしい。 「ならば、肉弾戦で倒す!」 「良いでしょう、そろそろ実験データが欲しかった。 上田さんにぶつけた少年だけでは不完全でしたからね。」 佑介の右ストレートがサンジェルマンへと伸びる。 直撃を危険だと判断したサンジェルマンは目にもとまらぬ速さで祐介の腕を蹴り上げた。 「――――――――ッ!」 「おや、痛いのですか? まだ戦闘時の痛覚遮断スイッチが不完全だったようだ。 これは次の手術の時に注意しておかないと。」 サンジェルマンの靴のつま先からは銀色に輝くナイフがのぞいている。 普段から仕込んでいるらしい。 「骨の丈夫さは完璧だ。 上田さんの手入れしてくれたナイフがボロボロになっているんだから間違いない。」 「チッ、小癪な!」 「ほらほら、まだまだ行きますよ!」 長い足を使って威力のある蹴りを次々に繰り出すサンジェルマン。 下段、中段、上段、目にもとまらぬ速さのサイドキックが祐介に炸裂する。 蹴りの勢いで吹き飛ばされた彼は本棚に激突した。 「くそっ、思ったよりも強い……! 組織の施設の中であれば全力で戦えないと踏んでいたのに!」 「ゼロナンバーは全力で戦えば周囲の施設を巻き込んでしまう程度には 強力な戦闘能力を持っています。 でも、だからといって屋内で戦えないことにはならない。 都市伝説も鍛錬で強くなれるんですよ。」 「そうか……、だがお前が純粋な肉体の性能で俺に勝っているとは思えないな。」 祐介は近くに置いてあった机を投げつける。 それを槍型の都市伝説を射出して撃ち落としたサンジェルマンに一瞬の隙がで来た。 「貰った!」 その踏み込みだけで床が震える。 全身の力を込めた裏拳がサンジェルマンに撃ち込まれた。 彼は辛うじてそれを受け止めたが、骨の折れる音がその体内に響く。 「くっ……!」 「確かにお前はそこそこ戦えるみたいだが、それでも人間止まりだよ。 肝心の高レベル都市伝説群も武器として使いこなせていないじゃないか。 さて、お前とお前の研究をたたきつぶしてさっさと此処を離れさせて貰おう!」 「それはさせません!」 無駄だと知りながらもサンジェルマンは再び都市伝説の射出を開始する。 当たりさえすれば肉を消滅し骨を粉砕せしむる圧倒的火力なのだが、 いかんせん当たると言うことがない。 これが上田明也であれば射出と同時に自らも突っ込み相手の動きを止めることができるのだが、 生粋の戦士たり得ないサンジェルマンはそのようなリスクのある行動が出来なかった。 「燃やし尽くせ振り袖火事!」 「くそ……、打ち据えろアグネァアァ!」 刹那、サンジェルマンの背後の空間が二つに裂ける。 そこから目にもとまらぬ速さで純白の槍が飛びだしてきた。 それは一瞬で祐介の身体を貫くと彼を壁に叩き付けて消滅した。 だが驚嘆するべきはその後起きた出来事だ。 とんでもない熱が辺りに広がったかと思うと祐介が叩き付けられた石壁がガラスのように変化してしまったのだ。 そしてその熱と袖振り火事の炎で図書館の本は次々に燃えていく。 その火がとある本棚に回った瞬間、彼は血相を変えた。 「お、どうした?そこに大事な本でもあるのか?」 「くそっ、貴様如きが私の研究を壊す? 巫山戯るな、私の神聖な研究を! 私の私による、世界と己が才能に苦悩する天才達とそして私の愛する人の為の研究を! 彼等と私の深遠なる城に、貴様のようなワラの家が入り込むんじゃあない! まだ壊す気なのか?まだ“俺”の研究を壊そうというなら容赦はしない! 行儀良くお前の喧嘩に付き合ってやっていたがそれももうお了いだ! 殺す、おまえなんざぼろ切れのようにぶち殺してやる! モルモット如きが!自爆装置でも付けておいてやれば良かった!」 「やっと、本性を現しやがったか。」 腹に巨大な穴を開けながらも国中祐介は立ち上がる。 彼はこれ以上の戦闘の継続を不可能だと判断して逃避を選択した。 「逃がさんぞモルモット!お前だけは許さん!」 次の瞬間、彼等の存在する空間が歪みねじれた。 「……ここは、日本庭園?」 国中祐介は自らの目を疑った。 自分はさっきまでかび臭そうな図書館にいたのに いつの間にやら日本庭園のど真ん中に立っているのだ。 「何が有ったんだぁ? って、サンジェルマンじゃねえか。 相当切れちまってるなあ、女がらみか? それとも……男? 無理矢理は良くないぜ?」 どこからか陽気な声が響く。 それはそれは生きていることが楽しくて仕方なさそうなテノールの音色。 「すいませんね、明久。すこしお願いが有ってきました。 貴方の息子さんを仇として狙っている男が其処にいるのですが、 私の図書館に火を付けていってですね。 火を消すまでに少し相手していて欲しいんですよ。」 声の主は日本庭園の池で鯉に餌をやる、腰に刀を差した男性。 上田明久である。 「それなら明也に戦わせてやれよ。 あいつだってガキじゃないんだからさ。 あいつのやったことの責任なんて俺はもう取っちゃいけないよ。」 「駄目です、あいつ足が速いんで私も明也さんも逃がしてしまいます。 私が帰ってくるまでで良いんです! 殺しておいても構いません!」 「無茶な事言うなあ……。」 「くっ、今の内に逃げておくか……?」 戦いを渋る明久。 国中佑介はもう状況を把握して逃げだそうとしている。 そこでサンジェルマンはアプローチを変えた。 「貴方の身体から得たデータを元に作ったホムンクルスですよ? 貴方も戦ってみたくはありませんか?」 「それを早く言えよ!」 子供のように明久ははしゃぐ。 それを確認するとサンジェルマンは次元を歪めて図書館にワープした。 「おい、そこのガキ! 俺はお前の仇とやらの父親なんだがどうする? できるなら殺してみろよ、そしたら明也の奴は多分悲しむと思うけどなあ?」 明久の言葉を聞く前から国中佑介は背を見せて逃走を始めていた。 自分の言葉が無視されて少しばかりむっとなる明久。 「おい、話くらい聞いていけよ。」 次の瞬間には、上田明久は国中佑介の肩を掴んでいた。 「いつの間にここまで近づかれた!?」 「うっせーな、お前の足が遅いんだろうがよ。 これじゃあ鬼ごっこにもなりやしねえ。」 明久の手を振り払うように佑介は明久に殴りかかった。 岩を砕き、鉄に穴を開ける拳、当然人間が喰らえばひとたまりもない。 だが、それはいとも容易く手のひらで止められた。 「体の使い方がなっちゃいねえ。 腰を使え腰!」 止めた拳を掴んだまま振り回して明久は祐介を地面に叩き付けた。 そしてそのまま日本刀を抜いて彼にトドメを刺そうとする。 だが間一髪祐介はそれを躱して明久を距離を取った。 「都市伝説……か?」 「馬鹿野郎、この程度鍛えれば誰でもできるわ! 俺の都市伝説はこの『村雨』だけだ!」 上田明久は腰に下げた刀を自慢げに振り回す。 「ほら、俺を元に作られたホムンクルスなんだろ? もっと骨の有るところ見せてみろよ!」 「くそっ、化け物め……!」 振り袖火事の炎を全身に纏い、国中佑介は上田明久をにらみつけた。 その目を見て始めて、上田明久は満足げに口元をゆるめる。 そして彼の息子がするように鷹のような鋭い目つきをみせた。 上田明久は生まれつき人間離れしたレベルで身体が丈夫だった。 そしてそこそこに勉強も出来た。 そんな彼には人生の全てが退屈だった。 彼の周りには彼ほど肉体・頭脳の両面で優秀な人間は居なかったのだ。 退屈を持てあまし、自分と同格と思える人間の居ない孤独に疲れた彼は、 何時しかこの夜の全ての享楽を味わってみようと思うに至っていた。 そうすれば彼自身の渇きや孤独が癒えると思ったのだ。 そんなときに彼はサンジェルマンと出会った。 彼は明久の才能に興味を持ち、彼の才能を伸ばす手助けをしてくれた。 だがサンジェルマンと世界を巡るうちに上田明久は気付いた。 世の中には自分より異常で異様でしかも優秀な人間が居る。 なんだ、自分は凡人ではないか。 そう思った時、彼は彼の周りの人間が愛おしくなった。 そして彼は自らを研鑽することを止めて、愛する人の為に生きようと決めた。 こうして生まれたのが上田明也とその弟だった。 「くっくっく、久しぶりの闘争だ。 久しぶりの競争だ。 何年ぶりだろうな、俺と戦える奴なんて!」 国中佑介は確信した。 確かに彼が知る上田明也程ではないがその父たるこの男もまた異常なのだと。 「殺し合いするのにあんな満ち足りた顔をした人間が居てたまるかよ……。」 「殺し合いは楽しいぞぉ、どんな人間でも同じ地平に立てる。 死の前では全てが等価だ!」 そう叫ぶと上田明久は国中祐介の懐に踏み込んで刀を抜いた。 「振り袖……」 ストォン 「無い袖は振れないよなあ!」 国中佑介の左腕の肘から先が胴体から離れて宙を舞った。 しかし彼に近づきすぎた明久の身体も炎に包まれた。 「村雨ェ!」 その瞬間、彼の差していた刀の鞘から大量の水が噴き出す。 明久はそれで自らのみを包む炎を消してしまった。 「なんだ、サンジェルマンのホムンクルスだから期待していたのに……。 たいしたこと無いじゃないか。」 「くそっ、調子に乗るなよ……!」 佑介は吹き飛ばされた腕を回収すると無理矢理それを切断面に接ぎ直す。 「ほう、昔の奴より再生力はあがってるみたいだな。 腹の傷もふさがり始めているし……、ハーメルンの笛吹きの研究データでも使ったか?」 気付けば攻防の主導権は上田明久のものとなっていた。 抜けば玉散る氷の刃。 抜けば霊散る氷の刃。 明久の繰り出す村雨は反撃の隙さえ与えずに祐介の肉体を切り刻む。 格別に速いという訳ではない。 格別に重いという訳ではない。 ただ当たり前に刀は繰り出され、血が噴き出す。 人工的に作られたホムンクルス独特の白い血が辺りを染める。 「おらおらおらおらおらおら! もっと頑張って、魅せろ!」 「畜生、こんなところで死ぬ訳には……!」 しかし、彼の祈りは届かない。 そこで奇跡を起こせないのが彼の限界なのだ。 「なんだ、奇跡の一つも起こせないのか? 追い詰められたら『その時不思議なことが起こった』とかナレーション入って逆転勝利だろうがよ! ったくこれだからホムンクルスは駄目なんだ!」 上田明久は一度刀を鞘に収める。 そして少し距離を取った後一気にそれを抜きはなった。 居合抜きの一閃、それは間違いなく国中佑介の胴を捉える。 佑介の胴から吹き出す白い血と内蔵を見た明久はすでに彼への興味を失っていた。 「……飽きた。」 自らの明らかな勝利を確信した上田明久は刀を納める。 彼の瞳はもう国中佑介を見ていない。 「ほら、帰れ。死にたくなければ帰れ。」 「……何言っているんだ!?」 「いやだからさ、お前と戦うの飽きた。 その内蔵仕舞ってさっさ帰って寝ろ。 どうせホムンクルスなんだから治るだろう? で、あとは俺の息子と戦うなりなんなり好きにしろ。」 「そう言って後ろからだまし討ちにするつもりなんだろ!」 「だって、それ必要ないくらい弱いじゃんお前。」 「――――――――――!」 その時突然空間が歪み始める。 どうやらサンジェルマンが帰ってくるらしい。 「ほら、あいつが帰ってくるぞ?」 「く、くそっ!」 国中佑介は脇目もふらず逃げ出した。 「……あいつを逃がしましたね明久さん。」 「だってあいつ弱いんだもん。 せめて俺の息子倒してくるか、俺の息子が強くなる為の餌にするかしないと。 今殺しちゃったらたのしくねえ。」 「戦いを楽しみにするのはやめたんじゃないんですか?」 「うるせえ、やっぱありゃ撤回だ。 戦闘最高戦争最高、世界には俺を楽しませる戦場がまだありました。 これで良いだろう?」 「むぅーん……。」 「闘争は即ち理解し合うことだ。 理解し合うことは即ち愛し合うことだ。 愛し合うことは即ち平和への第一歩だ。 闘争とは全ての存在を平等にして世界を救う為の第一歩なのだよ。 最近は闘争の根幹を理解しない連中が多くて困る。 打ち倒せど辱めず、圧倒すれど侮らず、それでこそ闘争なのだよ。 もっと自分が剣を向ける相手に敬意を抱け我が友よ。 それが出来ないと何時か取り返しがつかなくなるぞ。」 「いやぁ……訳がわかりません。」 「それは残念だ。ああそうだ、ミスド喰う? 葵が丁度買ってきていた所なんだよ。」 「フレンチクルーラーが有るなら良いでしょう。」 「良い返事だ。オールドファッションしかない!」 豪快に笑ってサンジェルマンの肩をたたくと上田明久は妻の名前を呼んだ。 どうやら外で喰おうということらしい。 どこまでも理解の外にいる友人だが、傍に居て居心地が良い。 サンジェルマンは先ほどまでの自分の怒りがゆっくりと薄れていくのを感じていた。 【上田明也の探偵倶楽部37~抜けば玉散る氷の刃~fin】
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【上田明也の探偵倶楽部37~抜けば玉散る氷の刃~】 「サンジェルマン、なんか俺、この前妙な奴らに襲われたんだけど。 いやお前が準備したのは解っているんだけどさ。 なんか俺まずいこと口走っちゃったみたいで……、うん。 俺の玩具にする目的でお前らはあいつに改造されたのだフッハッハー!とか言ったらさ。 そうそう、ごめんね。妙な事言わなきゃもっっと遊べたのに。 多分あいつはお前の命を狙っているから気をつけろよ。 ミスド買って帰るから許せ。」 プツッ 上田明也はサンジェルマンとの話をさっさと切り上げた。 やはりゲームの世界で彼に襲いかかってきたのはサンジェルマンが暇潰しにした実験の犠牲者だったらしい。 彼は都市伝説の力を使うのではなく、都市伝説で手に入れた技術で強化された人間を戦力として使ったのである。 埋め込み型の外骨格だの白い人工血液だの組織製の身体能力強化手術だのバイオテクノロジーだの文系の彼にはチンプンカンプンだが、 そんな彼にもその技術で容量や年齢やセンスに関係なくある程度の強さが手に入るという事が解った。。 まあ確かに強い人間であれば都市伝説の力なくして都市伝説に立ち向かうことが可能なのは既に証明されていることでもある。 契約者をスカウトするよりは、戦力としての効率が良い。 面白おかしいことをしているものだ、と上田明也は思った。 とてもとても下らなくて笑いが止まらない、とも思った。 彼の父が昔彼に教えてくれた事実がある。 強い人間は努力しなくても強いのだ。 弱い人間は何をしても弱いのだ。 それを改めて自覚させる為に弱い人間に力を与えるなんて中々良い趣味じゃないか。 自らを生まれついての強者と決めつけている上田明也は少し屈折した優越感を抱いていた。 だがそれも、少し時間が経つと虚しいだけの気持ちに切り替わっていた。 「あ、そうだ。」 彼はそのことに電話を切ってから気付いてしまう。 「サンジェルマンって戦闘能力有るの?」 上田明也はサンジェルマンがまともに戦闘しているのを見たことがない。 無論戦えないということは無いのだろうが、 この前の男のような俊敏な動きをする敵の相手が彼につとまるのだろうか? 「まああいつだってお偉いさんなんだから護衛の一人や二人はいるよね。」 もし護衛を頼まれても自分はパスだ。 そもそも自分は何かを守るということに向いていないのだから。 それに自分は明日晶の結婚するとか言う国中佐織の兄について調べねばならないのだ。 自分にそう言い聞かせると彼はそそくさと探偵業務に戻っていった。 日常に埋没していった。 「さて、F№の皆様に招集をかけるとしましょうか。 彼はここの場所を知っていますし、IDカードも持っていますから。」 『組織』の中にある古ぼけた図書館にサンジェルマンは座っていた。 そこが一応F№達の部屋と言うことにはなっているのだ。 だが彼等の規律が『徹頭徹尾フリーダム』である以上そこに素直に集まる者はほとんど居ない。 否、まったく居ない。 であるがゆえに 「招集をかけても誰も来ませんね。セキュリティーのホムンクルスまで来ないなんて。」 この状況にはサンジェルマンも苦笑いである。 恐らく全員が№0の命などどうでも良いのだろう。 図書館のドアが開く。 「招集に唯一応じたのが貴方だとは……、皮肉ですねえ。」 開いたドアが一瞬で燃え墜ちる。 古い本に火花が燃え移って焦げ臭い香りが辺りに充満した。 「どうも信用ならないと思っていたが…… 答えろサンジェルマン、俺に施した改造手術の目的を!」 「そんなの、貴方に上田明也を殺して貰う為に頑張って貰う為に決まってるじゃないですか。 私は嘘は吐いてません。 ただ、それが不可能なのを知っていただけです。」 ドアを開いた男の名前は国中佑介。 彼は上田明也によって妹を殺された男だ。 そして上田明也が身辺調査を始めたばかりの男だ。 「何度か貴方をここに連れてきていましたが……。 勝手に此処まで来るとはどういうことでしょう? 他の部署に比べて手薄とはいえ一応セキュリティーのホムン……黒服が居たはずですよ。」 「燃やしたよ。」 愉快そうに言い放つ佑介。 彼の衣服が揺れる度にそこから炎が舞い上がる。 「……いつの間に契約を?」 「組織に置いてあった契約書を奪い取らせて貰った。 お前が信用ならない以上これからは独自に行動する。 お前に、騙された分のお礼をしてからだがな!」 「ああそうか、『振り袖火事』の契約書を持ち出しましたね?」 「お前に戦闘能力が無いらしいことは知っている! まずは此処に残っている人体改造に関する研究のデータを破壊させて貰うぞ!」 「貴方の後続機を作られたら敵わないとでも?」 「違う、俺みたいな被害者をもう出したくないだけだ!」 「…………それは嘘だ。」 強化された身体能力に任せて飛びかかる佑介に対して、 小さな声でサンジェルマンは呟いた。 「来てください、『超古代文明の遺産(オーパーツ)』!」 サンジェルマンの手のひらがくぱぁと二つに割れる。 そしてそこから大量の剣や槍が雪崩の如く祐介に向けて射出される。 当然、それらの一つ一つが最高級の都市伝説だ。 すこしでも当たれば致命傷は免れない。 だがサンジェルマンの手で改造された人間「国中祐介」はその全てを視認して回避した。 「喰らえ!」 都市伝説の隙間を縫って振り袖火事の炎がサンジェルマンを包む。 だが炎の中から現れたサンジェルマンの身体には火傷一つできていなかった。 「危ない危ない……。」 「それもお前の都市伝説か?」 「そうですね、これが無ければ死んでいたかも知れません。 火鼠の皮衣なんて貴重品ですよ? 貴方が眼にすることなんてもう無いんじゃないでしょうか。」 サンジェルマンは何時の間にか闘牛士のような赤いマントを羽織っていた。 どうやらそれが炎を防いでいたらしい。 「ならば、肉弾戦で倒す!」 「良いでしょう、そろそろ実験データが欲しかった。 上田さんにぶつけた少年だけでは不完全でしたからね。」 佑介の右ストレートがサンジェルマンへと伸びる。 直撃を危険だと判断したサンジェルマンは目にもとまらぬ速さで祐介の腕を蹴り上げた。 「――――――――ッ!」 「おや、痛いのですか? まだ戦闘時の痛覚遮断スイッチが不完全だったようだ。 これは次の手術の時に注意しておかないと。」 サンジェルマンの靴のつま先からは銀色に輝くナイフがのぞいている。 普段から仕込んでいるらしい。 「骨の丈夫さは完璧だ。 上田さんの手入れしてくれたナイフがボロボロになっているんだから間違いない。」 「チッ、小癪な!」 「ほらほら、まだまだ行きますよ!」 長い足を使って威力のある蹴りを次々に繰り出すサンジェルマン。 下段、中段、上段、目にもとまらぬ速さのサイドキックが祐介に炸裂する。 蹴りの勢いで吹き飛ばされた彼は本棚に激突した。 「くそっ、思ったよりも強い……! 組織の施設の中であれば全力で戦えないと踏んでいたのに!」 「ゼロナンバーは全力で戦えば周囲の施設を巻き込んでしまう程度には 強力な戦闘能力を持っています。 でも、だからといって屋内で戦えないことにはならない。 都市伝説も鍛錬で強くなれるんですよ。」 「そうか……、だがお前が純粋な肉体の性能で俺に勝っているとは思えないな。」 祐介は近くに置いてあった机を投げつける。 それを槍型の都市伝説を射出して撃ち落としたサンジェルマンに一瞬の隙がで来た。 「貰った!」 その踏み込みだけで床が震える。 全身の力を込めた裏拳がサンジェルマンに撃ち込まれた。 彼は辛うじてそれを受け止めたが、骨の折れる音がその体内に響く。 「くっ……!」 「確かにお前はそこそこ戦えるみたいだが、それでも人間止まりだよ。 肝心の高レベル都市伝説群も武器として使いこなせていないじゃないか。 さて、お前とお前の研究をたたきつぶしてさっさと此処を離れさせて貰おう!」 「それはさせません!」 無駄だと知りながらもサンジェルマンは再び都市伝説の射出を開始する。 当たりさえすれば肉を消滅し骨を粉砕せしむる圧倒的火力なのだが、 いかんせん当たると言うことがない。 これが上田明也であれば射出と同時に自らも突っ込み相手の動きを止めることができるのだが、 生粋の戦士たり得ないサンジェルマンはそのようなリスクのある行動が出来なかった。 「燃やし尽くせ振り袖火事!」 「くそ……、打ち据えろアグネァアァ!」 刹那、サンジェルマンの背後の空間が二つに裂ける。 そこから目にもとまらぬ速さで純白の槍が飛びだしてきた。 それは一瞬で祐介の身体を貫くと彼を壁に叩き付けて消滅した。 だが驚嘆するべきはその後起きた出来事だ。 とんでもない熱が辺りに広がったかと思うと祐介が叩き付けられた石壁がガラスのように変化してしまったのだ。 そしてその熱と袖振り火事の炎で図書館の本は次々に燃えていく。 その火がとある本棚に回った瞬間、彼は血相を変えた。 「お、どうした?そこに大事な本でもあるのか?」 「くそっ、貴様如きが私の研究を壊す? 巫山戯るな、私の神聖な研究を! 私の私による、世界と己が才能に苦悩する天才達とそして私の愛する人の為の研究を! 彼等と私の深遠なる城に、貴様のようなワラの家が入り込むんじゃあない! まだ壊す気なのか?まだ“俺”の研究を壊そうというなら容赦はしない! 行儀良くお前の喧嘩に付き合ってやっていたがそれももうお了いだ! 殺す、おまえなんざぼろ切れのようにぶち殺してやる! モルモット如きが!自爆装置でも付けておいてやれば良かった!」 「やっと、本性を現しやがったか。」 腹に巨大な穴を開けながらも国中祐介は立ち上がる。 彼はこれ以上の戦闘の継続を不可能だと判断して逃避を選択した。 「逃がさんぞモルモット!お前だけは許さん!」 次の瞬間、彼等の存在する空間が歪みねじれた。 「……ここは、日本庭園?」 国中祐介は自らの目を疑った。 自分はさっきまでかび臭そうな図書館にいたのに いつの間にやら日本庭園のど真ん中に立っているのだ。 「何が有ったんだぁ? って、サンジェルマンじゃねえか。 相当切れちまってるなあ、女がらみか? それとも……男? 無理矢理は良くないぜ?」 どこからか陽気な声が響く。 それはそれは生きていることが楽しくて仕方なさそうなテノールの音色。 「すいませんね、明久。すこしお願いが有ってきました。 貴方の息子さんを仇として狙っている男が其処にいるのですが、 私の図書館に火を付けていってですね。 火を消すまでに少し相手していて欲しいんですよ。」 声の主は日本庭園の池で鯉に餌をやる、腰に刀を差した男性。 上田明久である。 「それなら明也に戦わせてやれよ。 あいつだってガキじゃないんだからさ。 あいつのやったことの責任なんて俺はもう取っちゃいけないよ。」 「駄目です、あいつ足が速いんで私も明也さんも逃がしてしまいます。 私が帰ってくるまでで良いんです! 殺しておいても構いません!」 「無茶な事言うなあ……。」 「くっ、今の内に逃げておくか……?」 戦いを渋る明久。 国中佑介はもう状況を把握して逃げだそうとしている。 そこでサンジェルマンはアプローチを変えた。 「貴方の身体から得たデータを元に作ったホムンクルスですよ? 貴方も戦ってみたくはありませんか?」 「それを早く言えよ!」 子供のように明久ははしゃぐ。 それを確認するとサンジェルマンは次元を歪めて図書館にワープした。 「おい、そこのガキ! 俺はお前の仇とやらの父親なんだがどうする? できるなら殺してみろよ、そしたら明也の奴は多分悲しむと思うけどなあ?」 明久の言葉を聞く前から国中佑介は背を見せて逃走を始めていた。 自分の言葉が無視されて少しばかりむっとなる明久。 「おい、話くらい聞いていけよ。」 次の瞬間には、上田明久は国中佑介の肩を掴んでいた。 「いつの間にここまで近づかれた!?」 「うっせーな、お前の足が遅いんだろうがよ。 これじゃあ鬼ごっこにもなりやしねえ。」 明久の手を振り払うように佑介は明久に殴りかかった。 岩を砕き、鉄に穴を開ける拳、当然人間が喰らえばひとたまりもない。 だが、それはいとも容易く手のひらで止められた。 「体の使い方がなっちゃいねえ。 腰を使え腰!」 止めた拳を掴んだまま振り回して明久は祐介を地面に叩き付けた。 そしてそのまま日本刀を抜いて彼にトドメを刺そうとする。 だが間一髪祐介はそれを躱して明久を距離を取った。 「都市伝説……か?」 「馬鹿野郎、この程度鍛えれば誰でもできるわ! 俺の都市伝説はこの『村雨』だけだ!」 上田明久は腰に下げた刀を自慢げに振り回す。 「ほら、俺を元に作られたホムンクルスなんだろ? もっと骨の有るところ見せてみろよ!」 「くそっ、化け物め……!」 振り袖火事の炎を全身に纏い、国中佑介は上田明久をにらみつけた。 その目を見て始めて、上田明久は満足げに口元をゆるめる。 そして彼の息子がするように鷹のような鋭い目つきをみせた。 上田明久は生まれつき人間離れしたレベルで身体が丈夫だった。 そしてそこそこに勉強も出来た。 そんな彼には人生の全てが退屈だった。 彼の周りには彼ほど肉体・頭脳の両面で優秀な人間は居なかったのだ。 退屈を持てあまし、自分と同格と思える人間の居ない孤独に疲れた彼は、 何時しかこの夜の全ての享楽を味わってみようと思うに至っていた。 そうすれば彼自身の渇きや孤独が癒えると思ったのだ。 そんなときに彼はサンジェルマンと出会った。 彼は明久の才能に興味を持ち、彼の才能を伸ばす手助けをしてくれた。 だがサンジェルマンと世界を巡るうちに上田明久は気付いた。 世の中には自分より異常で異様でしかも優秀な人間が居る。 なんだ、自分は凡人ではないか。 そう思った時、彼は彼の周りの人間が愛おしくなった。 そして彼は自らを研鑽することを止めて、愛する人の為に生きようと決めた。 こうして生まれたのが上田明也とその弟だった。 「くっくっく、久しぶりの闘争だ。 久しぶりの競争だ。 何年ぶりだろうな、俺と戦える奴なんて!」 国中佑介は確信した。 確かに彼が知る上田明也程ではないがその父たるこの男もまた異常なのだと。 「殺し合いするのにあんな満ち足りた顔をした人間が居てたまるかよ……。」 「殺し合いは楽しいぞぉ、どんな人間でも同じ地平に立てる。 死の前では全てが等価だ!」 そう叫ぶと上田明久は国中祐介の懐に踏み込んで刀を抜いた。 「振り袖……」 ストォン 「無い袖は振れないよなあ!」 国中佑介の左腕の肘から先が胴体から離れて宙を舞った。 しかし彼に近づきすぎた明久の身体も炎に包まれた。 「村雨ェ!」 その瞬間、彼の差していた刀の鞘から大量の水が噴き出す。 明久はそれで自らのみを包む炎を消してしまった。 「なんだ、サンジェルマンのホムンクルスだから期待していたのに……。 たいしたこと無いじゃないか。」 「くそっ、調子に乗るなよ……!」 佑介は吹き飛ばされた腕を回収すると無理矢理それを切断面に接ぎ直す。 「ほう、昔の奴より再生力はあがってるみたいだな。 腹の傷もふさがり始めているし……、ハーメルンの笛吹きの研究データでも使ったか?」 気付けば攻防の主導権は上田明久のものとなっていた。 抜けば玉散る氷の刃。 抜けば霊散る氷の刃。 明久の繰り出す村雨は反撃の隙さえ与えずに祐介の肉体を切り刻む。 格別に速いという訳ではない。 格別に重いという訳ではない。 ただ当たり前に刀は繰り出され、血が噴き出す。 人工的に作られたホムンクルス独特の白い血が辺りを染める。 「おらおらおらおらおらおら! もっと頑張って、魅せろ!」 「畜生、こんなところで死ぬ訳には……!」 しかし、彼の祈りは届かない。 そこで奇跡を起こせないのが彼の限界なのだ。 「なんだ、奇跡の一つも起こせないのか? 追い詰められたら『その時不思議なことが起こった』とかナレーション入って逆転勝利だろうがよ! ったくこれだからホムンクルスは駄目なんだ!」 上田明久は一度刀を鞘に収める。 そして少し距離を取った後一気にそれを抜きはなった。 居合抜きの一閃、それは間違いなく国中佑介の胴を捉える。 佑介の胴から吹き出す白い血と内蔵を見た明久はすでに彼への興味を失っていた。 「……飽きた。」 自らの明らかな勝利を確信した上田明久は刀を納める。 彼の瞳はもう国中佑介を見ていない。 「ほら、帰れ。死にたくなければ帰れ。」 「……何言っているんだ!?」 「いやだからさ、お前と戦うの飽きた。 その内蔵仕舞ってさっさ帰って寝ろ。 どうせホムンクルスなんだから治るだろう? で、あとは俺の息子と戦うなりなんなり好きにしろ。」 「そう言って後ろからだまし討ちにするつもりなんだろ!」 「だって、それ必要ないくらい弱いじゃんお前。」 「――――――――――!」 その時突然空間が歪み始める。 どうやらサンジェルマンが帰ってくるらしい。 「ほら、あいつが帰ってくるぞ?」 「く、くそっ!」 国中佑介は脇目もふらず逃げ出した。 「……あいつを逃がしましたね明久さん。」 「だってあいつ弱いんだもん。 せめて俺の息子倒してくるか、俺の息子が強くなる為の餌にするかしないと。 今殺しちゃったらたのしくねえ。」 「戦いを楽しみにするのはやめたんじゃないんですか?」 「うるせえ、やっぱありゃ撤回だ。 戦闘最高戦争最高、世界には俺を楽しませる戦場がまだありました。 これで良いだろう?」 「むぅーん……。」 「闘争は即ち理解し合うことだ。 理解し合うことは即ち愛し合うことだ。 愛し合うことは即ち平和への第一歩だ。 闘争とは全ての存在を平等にして世界を救う為の第一歩なのだよ。 最近は闘争の根幹を理解しない連中が多くて困る。 打ち倒せど辱めず、圧倒すれど侮らず、それでこそ闘争なのだよ。 もっと自分が剣を向ける相手に敬意を抱け我が友よ。 それが出来ないと何時か取り返しがつかなくなるぞ。」 「いやぁ……訳がわかりません。」 「それは残念だ。ああそうだ、ミスド喰う? 葵が丁度買ってきていた所なんだよ。」 「フレンチクルーラーが有るなら良いでしょう。」 「良い返事だ。オールドファッションしかない!」 豪快に笑ってサンジェルマンの肩をたたくと上田明久は妻の名前を呼んだ。 どうやら外で喰おうということらしい。 どこまでも理解の外にいる友人だが、傍に居て居心地が良い。 サンジェルマンは先ほどまでの自分の怒りがゆっくりと薄れていくのを感じていた。 【上田明也の探偵倶楽部37~抜けば玉散る氷の刃~fin】
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―第24章 主人公は大変な都市伝説をセイバーヘルッ!― やはり人間には休息が必要だ。毎日勉強ばかりでは流石の俺も駄目になっちまう。休日の間に疲れが取れるといいが… 「うおっとぉ!」ドカーン!やはり俺に休息は与えられないようだ。今回の相手は― 「ウガー!」…なんで残暑厳しいこの時期に雪男がこんなとこにいるんだよ! 雪男はお構いなしに俺に攻撃してくる! 「くっ…天照、防げるか?」 「まかせて!えーい!」 俺の目の前で雪男のデカい腕が見えない壁に当ってこちらまでは届かない!だが― パリーン! 「きゃうっ!」 「大丈夫か、天照!」 「ええ、何とかね…」 相手は馬鹿みたいにデカすぎる!…やっぱり「アレ」をやるしかないみたいだな。 「よし皆、一気にかたをつけるぞ!建速!いつもの2倍の刀を出せ!」 「了解!」 そういうと建速は、いつものように刀に変化した。ただしいつもとちょっと違うところはその刀が「2本」であるという点だけである。 「天照は『結界』を展開して被害を最小限に食い止めろ!」 「分かったわ!」 「月読は全世界のネットワークを駆使して奴の弱点を探れ!あと俺たちのサポートも忘れないでくれ!」 「了解しました。ネットワーク同調開始…」キィィィン! 「あとは俺らで食い止めるだけだっ!いくぞ!」 『結界』の中では、俺は重力・空気抵抗・その他諸々の抵抗力はほとんど無視できる!故に上空に飛び上がって― 「こんな事だって出来るんだぁっ!」ガキーン! …なんてこった。全くと言って良いほど全然ダメージを受けてない! 「月読、弱点は出たか?」 「…出ました!弱点は…「肩の後ろの二本の牛蒡の真ん中にあるすね毛の下のロココ調の右」…なんですか、これは?」 …絶対に有り得ない!大体肩の後ろに牛蒡なんて生えるわけがないし、もし生えたとしても、背中にすね毛は生えるはずがない!更にロココ調って何だよ! もし仮に牛蒡じゃなかったとしても、奴の背中には角らしきものは生えてないじゃないか! 「…こうなったら!ゴルディオンセイバー、発動承認だっ!」 「了解…。ゴルディオンセイバーMk.2、セーフティデバイス、リリーブ!」ピンポン♪ 「ツインゴルディオンセイバー!」 二本の刀はそれぞれ金色の刀と銀色の刀へと色を変えた。 俺は銀色の刀で奴の脳天から縦一文字に斬った! 「セイバーへルッ!」 そして金色の刀で今度は縦の中心と交わるように横一文字に斬った! 「セイバーヘヴン!」 最後に2本の刀で三十四分割の大盤振舞いを食らわせた! 「光になれぇっ!」 切り捨てた肉塊は全て光になって消えた。勿論、奴に流れていたであろう真っ赤な血液でさえも― あとに残ったのは、『結界』内部で奴が破壊した道路だけである。この道路の凹みも『結界』を解除させてしまえば復元されてしまうため問題はない。 次回予告 ―君たちに最新情報を公開しよう! 忍び寄る気配、新たなる都市伝説か?それとも契約者なのか?更に遠くから見つめる怪しい黒服の男。果たして彼の正体は? 「結界都市『東京』」the NEXT,"新たなる白き破壊者"次回もこのチャンネルでファイナルフュージョン、承認! これが勝利の鍵だ!! つ「プラズマカリバー」 前ページ次ページ連載 - 結界都市『東京』
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これは、[黄昏 正義(たそがれセイギ)]少年が小学6年生になった頃、屋上で起こった出来事だ。 もう少年の安否を見張る必要も無い上、下手に契約者と接触したくないと思い、俺は屋上で座り、瞑想をしていた。 この瞑想というのは俺にとっての回復方法の1つで、 さらに自己の能力の分析をしたり、敵を察知しやすくなったりと都合が良く、時間があれば瞑想をしている。 ―――その次の瞬間、何が起こるかも知らずに――― 不意に都市伝説の気配を察知する。 その気配は、今までの都市伝説とは比べ物にならないほど大きかった。 いつもなら、詳しい位置を調べてから動くのだが、その必要はなかった。 眼を開けると、その都市伝説の居場所が分かった。 そう、真後ろだ。突如真後ろに現れたのだ。そして前には、巨大な鎌が首を斬らんとしていた。 大王「・・・まさか、もう出会う事になるとはな。もう少し心構えができてからにしたかったが。」 ???「私を知っているのか、『Αμαρτωλοσ(アマルトロス)』。」 大王「あぁ、生まれた時からな!絶対に会わない方がいいと教えられた。」 思えば、あの時かすかに震えていた気がする。初めて恐怖を覚えたからであろうか。 それだけ、あの存在は、全てのものが恐れる存在だった。 大王「お会いしたくなかったよ、【Θανατοσ(タナトス)】。」 そう、あの時そこにいたものこそが、神話と呼ばれる都市伝説の1柱【タナトス】だった。 何故か【タナトス】は俺の首にかけていた鎌を下ろす。 タナトス「まさかお前にまで私の名が広まっていたとは思わなかったな、【恐怖の大王】。」 大王「ほぅ、俺こそ光栄だな。神まで俺の名を知っていたとは。都市伝説の死神、【タナトス】。 将来有望の俺を狩りに来たのか?」 タナトス「あぁ。その予定だった。」 大王「『だった』?まさかこの俺の強さに怖気ついたのか?」 あの時はあえてありえない事を言ってみた。 しかしこれが吉となり、色々な情報を引き出す事となろうとは、思いもよらなかった。 タナトス「お前達は私達には絶対に敵わない。お前は『Ταξη(タクシ)』を知っているか?」 大王「『タクシ』?なんだそれは?」 タナトス「まぁ、知らぬものもいるか。都市伝説には強さに応じて『タクシ』、つまり階級がある。」 【タナトス】は鎌を背中のホルダーにかけると、大王に背を向け、教授するかのように話を続ける。 タナトス「『タクシ』はΕ(エプシロン)を最低としてΔ(デルタ)Γ(ガンマ)Β(ベータ) そしてΑ(アルファ)と私達は定めている。」 大王「つまりΑが最高という事か。実に分かりやすいな。」 タナトス「例えば、お前が戦ってきた【ベッドの下の男】はΔ、【口裂け女】【透明警備員】はΓだ。」 どのようなものかと思えば、あっさりと数値が出た。そうなれば当然気になるものがある。 大王「そうか、では俺はどこなんだ?常識ではΓ以上か。」 タナトス「お前は、Αだ。」 【タナトス】が少し溜めてから放った言葉に、流石の俺も驚いた。 まさか神に最高の称号を与えられるとは。だが。 大王「待て、どういう事だ?『敵わない』事についてこの話題を出したなら、お前がΑとなるんじゃないのか?」 タナトス「勘違いするな。私達は、Αではない。」 【タナトス】は振り返り、不敵に笑いながら、こう告げた。 タナトス「その上の、Ω(オメガ)だ。」 大王「ッ!もう一つ、上、だというのか・・・。」 タナトス「都市伝説は信じられ、語られる事によって強さや能力を得る。 なら信仰され、生贄まで捧げられてきた神の方が、 人を怖がらせるためだけに生まれたお前たちより、上だという事だ。」 所詮、神は絶対に越えられない存在だったのであろうか。 次の階級への道の遠さは目の前にある気迫が伝えてくれた。 大王「・・・。それで、改めて訊ねようか。何故俺を狙いに来た?そして何故殺せないんだ?」 タナトス「『Μοιρα(モイラ)』を歪め、悲しませるアマルトロスを消すためだ。」 大王「【モイラ】?神の名か?」 【タナトス】は呆れたかのように溜め息をつき、説明を始める。 タナトス「『モイラ』は『運命』、それを司る神だ。主に人間の運命を定めている。」 大王「人間の運命、そんなものを決めている神を悲しませる?運命を歪める?俺にはそんな事、不可能だ。」 タナトス「いや、可能だ。『モイラ』には元々存在するべきではない都市伝説に関する事は含まれていない。」 大王「それで俺が暴れればその分変わる、か。しかしまだ1人も殺してはいないぞ?念のためか?」 【タナトス】はまた背を向けて、俺に重大な事実を告げた。 タナトス「いいや、お前は歪めた。お前の契約者の『モイラ』を。」 大王「なに、少年の運命?どういう事だ?契約してから少年の寿命が縮んだとでも言うのか?」 タナトス「お前の契約者は、本来とうの昔に死んでいる。死因は自殺だ。」 自殺?ふざけるな!少年がそんな事をする理由は―――その発言を止めたのは自分自身だった。 心当たりがあった。 [心星 奈海(しんぼしナミ)]少女とケンカをした時、あの時なら餓死、あるいは自殺しかねない、そう思ったのだ。 しかし俺は、それを止めた。つまり少年の寿命を延ばした。 それが神に抗うという罪か。 タナトス「さらに、その後を追い自殺するはずだった者も、お前の契約者が生きている所為で生きている。」 大王「あの少女か、確かに少年が死ねばそうなりかねん。 で、このアマルトロス、『罪人』か、何故殺せないんだ?上からの命令か?」 俺はまたありえない事を口にした、つもりだった。 【タナトス】より上があるなどと、その時は思いもしなかった。 タナトス「その通りだ。『お前及びその契約者を殺してはならない』という命令を受けている。」 大王「お前より上がいる、のか?」 タナトス「あぁ、神にもタクシがある。上位達が決めた命令は絶対だ、だが! 急に始まったあの怒りの発言は、何故か鮮明に覚えている。 タナトス「あの餓鬼は悪戯ばかり、格闘馬鹿共は修行に明け暮れ、 誰一人とて神の自覚も無く遊びまわり! 挙句に現最高神は訳の分からない戯言を抜かす!何を考えているんだ!」 【タナトス】のまわりが歪んで見える。 本来なら恐れるべきところだろうか、しかしあの時は、恐れとは別の、『足りない物』を感じた。 タナトス「だが、【モイラ】様は違った。あの方は神の自覚を持ち、人間の運命を、紡ぎ続けていたのだ。」 急に声の調子が変わり、まるで感傷的になった。 しかし次の瞬間にはまた、その眼は威圧するかのように鋭くなった。 タナトス「その【モイラ】様が定めたものを、歪めるものがあるのなら、 この私がそれを狩る。それが私の、使命だ。」 その発言の後、背中に掛けていた鎌を手に取り空を斬る。 すると空間が歪み、言葉では表現できない暗い色をした穴が開いた。 大王「結局、帰るという事か?」 タナトス「『殺さない』という命がある以上、警告が唯一私にできる事だ。」 大王「もし、俺が人を殺したら、どうする気だ?」 タナトス「その時は、奴等の判断と私の判断、どちらが正しかったか分かる時だろう。」 そう言い残し、【タナトス】は自分で開けた穴の中へと入り、穴は何事もなかったかのように閉じた。 残ったものといえば、『神』に関する情報と―――本来沸き起こるはずのない好奇心であった。 【タナトス】については、『鎌の事』『都市伝説狩りをしている事』『死を司る神である事』ぐらいの情報は得ていたが、 この日、新たに『他にも多くの神がいる事』『それは究極の階級を持つ事』 そして『【タナトス】以外は敵意が無いと思われる事』―――。 しかし、得た情報の分、謎も生まれた。『何故俺と少年は生かされているのか?』 そして『何故【モイラ】の定めた運命に都市伝説は干渉しないのか?』―――。 神は謎が多い、本来はそれを恐れるべきなのだろう。 気が付くと、俺の脚はある人物の元へと俺を運んでいた。そこには、俺の契約者である少年がいた。 さらに気付く。俺は少年と共になら神を倒せると思っている事を。 昔の、契約する前の俺だったら、【タナトス】をどうしただろうか。 無闇に戦いを挑み散るか、あの心の不安定さから仲間にしようと試みたか? しかし今では、逆に諦めて逃げるでもなく、むしろ神を超え、自分の限界に挑戦してみたいと思えるようになった。 昔の俺では【口裂け女】を倒せただろうか?【テケトコ】【透明警備員】を倒すための仲間はいただろうか? 少年のおかげで強くなった事は明確だ。 俺は少年に【タナトス】の事を伝えようかと思った。しかし、やめておく事にした。 もし少年が俺のために、いや、これは自意識過剰か。好奇心で神に挑んでしまう可能性があるから、としておこう。 正義「どうしたの?大王、行くよ。」 今日から【タナトス】を越えるほど強くなるまで、修行を積む事にするか。 大王「あぁ。少年、今行く。」 ―――世界征服への道は遠い。 第7話「狙われた日」―完― 前ページ次ページ連載 - 舞い降りた大王